2026 年 7 月 8 日から 11 日にかけてメキシコシティで開催された第 5 回 Transition Design Conference 2026 で、当研究室 博士課程の木許 宏美さんが研究発表を行いました。半導体の領域でサステナビリティ・トランジションをどう起こすか、そのために大学の教育をどう使うかを論じた発表です。

Transition Design Conference 2026
主催は Tecnológico de Monterrey(メキシコ)、University of Palermo(アルゼンチン)、Carnegie Mellon University の Transition Design Institute(米国)。会場は Tecnológico de Monterrey のメキシコシティキャンパスで、テーマは「Weaving Regenerative Futures」でした。サステナビリティ・トランジションとシステムチェンジに携わる研究者・実践者が各国から集まり、基調講演は Terry Irwin 氏、İdil Gaziulusoy 氏、Anand Pandian 氏が務めました。
発表:半導体領域における実践と教育の循環
半導体のイノベーションは、長らく国際的な技術ロードマップを軸に組み立てられてきました。関心は微細化や性能といった技術指標に集まり、半導体は本来どのような持続可能な未来を可能にすべきなのか、どの経路でそこへ向かうのか、という規範的な問いを分野を越えて熟議する基盤は乏しいままです。教育も同じ形をしています。サプライチェーンの各段階が求める専門能力に重心が置かれ、望ましい社会像を描き、それを実装可能な社会技術的構想へ翻訳する力を養う場は多くありません。
発表が提案した TPEC(Transition Practice–Education Cycle)は、この空白に橋を架けるプロセスの枠組みです。トランジションデザイン (Transition Design) とトランジションマネジメントを下敷きに、3 つの活動を反復的に接続します。フロントランナーを集めた (1) ワークショップでトランジションアジェンダを形成し、(2) 大学のプロジェクトベースドラーニング「Transition Design Studio」で教育と実験に展開し、(3) フォーラムで成果を産業や地域の関係者へ返してアジェンダを更新する。教育を、トランジションに向けた介入を試作する場として使うところに眼目があります。
東京科学大学がトランジションの仲介者となり、2025 年 1 月から 2026 年 2 月にかけて初回のサイクルを実装しました。活動 1 のワークショップには、半導体分野と、農業・物流・医療・ドローン・スマートシティ・エンターテインメントの 6 領域から 36 名のフロントランナーが集まりました。活動 2 の TD Studio は半期 16 回。修士・博士課程の学生 10 名が宮城県仙台市青葉区の宮城地区(約 900 世帯、高齢化率 45.8 %)に入り、「人口減少地域における持続可能な暮らしのインフラ」を設計課題として、システミックな分析から未来ビジョン、PSS の構想、SoC の設計要件までを一本の線でつなぎました。
Research through Design の立場で実装を振り返ると、当初の設計に欠けていたものが活動の継ぎ目に見えてきます。Agenda-to-Education Translation は、広範なアジェンダを、半期の授業として成立する設計課題へ組み替える働き。Project Translation and Validation は、学生が生んだプロジェクトの種を、事業性・資金構造・実装主体・技術選択の検討を通じて実装可能なプロジェクトへ押し上げる働きです。半導体の開発と製造に多額の初期投資と一定の生産規模が要る以上、教育の成果がそのまま投資可能な事業機会になることはありません。改訂版の TPEC は、この 2 つを担当者任せの暗黙の調整ではなく、明示的なデザイン行為として枠組みに組み込みました。

望ましい社会技術的な未来から半導体の設計要件へ遡り、その文脈で半導体を使うべきか否かを見極める。発表はこの一連の能力を Transition-oriented Semiconductor Capability と名づけ、半導体のような基盤技術の領域における教育目標の候補として示しました。
書誌情報
Kimoto, H., Fujisaki, M., Inoue, K., Kamitsubo, N., Takagi, S., Saito, K., & Ohashi, T. (2026). Enabling Sustainability Transitions in the Semiconductor Domain: Designing a Transition Practice–Education Cycle. Transition Design Conference 2026, Mexico City. doi:10.5281/zenodo.21056064
おわりに
半導体は社会のあらゆる領域に入り込んでいく基盤技術です。何のための未来か、どの現場の課題を設計へ翻訳するのか。TPEC は、その問いを教育のただ中に置く試みでもあります。当研究室では引き続き、実践と教育をつなぐ仕組みを、実装しながら設計していきます。