PROJECTS

大橋研究室の
プロジェクトの紹介

PROLOGUE

トランジションデザイン —
私たちの方法論

気候変動、高齢化、食料安全保障、教育格差——これらは複数の問題が相互に絡み合い、単一の解決策では対処できない「厄介な問題(Wicked Problems)」です。求められるのは、技術・制度・市場・文化・人々の価値観を含む社会技術システムそのものの変革、すなわちトランジションです。

トランジションデザインは、多様なステークホルダーとともに現在の問題構造を可視化し、既存の延長線上にない望ましい未来像を構想し、そこへ至る移行経路(変革の理論)を設計・実践する方法論です。

大橋研究室では、食・農業、防災、ケア、教育、ディープテックといった多様な領域でこの方法論を実践しながら、理論と実践の往還を通じて方法論そのものの深化に取り組んでいます。トランジションデザイン研究会による国際的な知の発信、一般社団法人トランジションエコシステムを通じた社会実装基盤の構築、未来共創半導体イノベーションアリーナ(SiCA)における人材育成と社会変革の同時実現など、研究室の枠を超えた活動を展開しています。

01

持続可能なタンパク質食料供給システムに向けたトランジションデザイン

近年、畜産業は環境負荷やアニマルウェルフェアの観点から大きな転換期を迎えています。温室効果ガスの排出、飼料生産のための土地利用、水資源の大量消費、家畜排せつ物による汚染など、様々な環境問題が指摘されています。そのため、持続可能な畜産業の構築に向け、有機畜産やアニマルウェルフェアに配慮した飼養への移行が求められています。また、植物性の代替肉や細胞培養肉の開発も進んでいます。

我々のタンパク質供給・消費スタイルには変革が求められています。しかし、どのような方向にシフトすればいいのか、持続可能な食の定義は何か、どうすれば今後もお肉を食べ続けることができるのかは定まっていません。当研究室では、食のサプライチェーンに関わる様々な立場の方々と共に、現状を把握し、未来を描き、具体的にどのような行動をすれば、持続可能な食の選択が「当たり前」になるのか、探索しています。

PRODUCTION SIDE

アニマルウェルフェアに配慮しつつ、その管理作業を低コストで実現する仕組みの構築に向けて、電子回路技術や動物行動学の研究者との共同研究を行っています。放牧牛に首輪型センサを取り付け、放牧牛の飲水・摂食、伏臥位、立位、歩行などの複雑な行動や姿勢の情報をAI処理により推定する技術検証をこれまでに実施し、放牧牛の遠隔モニタリングを行う首輪デバイスとクラウドアプリケーションなどで構成する放牧牛管理システム「PETER」を開発しています。

放牧牛管理システム PETER
共同研究チームが目指す将来の畜産イメージ
CONSUMER SIDE

持続的な食料供給の未来を探索するため、日本の牛肉消費者4,421人を対象に質問紙調査を実施し、消費者行動を分析しました。この調査によって、消費者は大きく5種類に分類され、回答者の80%以上が国産オーガニック牛肉を好み、プレミアム価格を支払うことに抵抗がないことが示されました。特に「新しいもの好き」は代替肉を高く評価し、「価格重視」はコストパフォーマンスを重視する傾向が強いことが明らかになりました。消費者の価値観や嗜好を正確に捉えることで、持続可能なタンパク源の利用を促進できる可能性があります。

SUPPLY CHAIN

近年、食品の持続可能性を高めるために、Short Food Supply Chain (SFSC) の構築が注目されています。SFSCは、生産者と消費者を直接つなぎ、地域内で生産された食材が消費者に届くまでの距離を最小限に抑える仕組みです。これにより、環境負荷の軽減、地域経済の活性化、そして食の安全性の向上が期待されています。

例えば、当研究室が長年フィールドワークを行っている石垣島の離島・黒島では、アニマルウェルフェアに配慮した飼養を行っている生産者と、フードロス削減に取り組むシェフが直接会い、対話を重ねています。この連携を通じて、食材の背景や生産方法を深く理解し、消費者にストーリーと共にアニマルウェルフェアに配慮した高品質な牛肉料理を提供する実証実験も行っています。

02

通信インフラ断絶時でも被害状況を把握できるシステム

災害時に被災者を誰一人取り残さないことを目指し、防災機関向けに、大津波で通信インフラが断絶しても被害状況を迅速に把握できる、衛星とスマートフォンを活用した双方向通信システムを設計。設計・実装において超学際的な研究チームを組成しています。このシステムは既存の衛星・通信技術と異なり、スマートフォンの微弱電波を利用し、被害状況をマッピングできます。また、人々の避難意識を高める UI/UX デザインを行いつつ、自治体と減災戦略を共創することを目指しています。

双方向通信システムとは

災害時の被災者の孤立を防ぐべく、当研究室では、スマートフォンから発信される微弱電波を活用し、位置情報把握や災害時通信を実現します。UI/UX デザインで避難意識を刺激し、自治体連携によって救援対象エリアの優先順位付けを行うシステム活用を検討。超学際的なチームで研究を推進し、地震・津波の被害を極限まで抑える減災戦略の立案を目指しています。

本プロジェクトの特徴は複数の領域の専門家でチームを組むこと。それぞれの領域における専門知識をグループワークを通じて統合する活動を通じて、超学際的に課題の特定、ソリューションの組み立てを行っています。

03

トランジションデザインプラットフォームの構築

東京科学大学を中心に、革新的・破壊的な研究開発成果の社会実装を促進するための新たな仕組みとして、トランジションデザインプラットフォームの構築に取り組んでいます。このプラットフォームは、厄介な社会課題にアプローチするため、多くのステークホルダーが連携できる環境構築を推進しています。

実施イメージ

トランジションデザインを活用し、社会の難解な課題を解決できる将来像(Big Picture)を定義できる方法論を確立。政府・自治体・企業・スタートアップにその方法論を展開し、力強く事業化を推し進めるべく、産官学金が密に連携できるコンソーシアムを立ち上げています。